店頭に飾ってあるstyle4と呼ばれるフルコン(正確には全長266cm)は、1875年頃に製造され、現行のNYスタインウェイが完成する一歩前のピアノです。この数年後にスタインウェイは鉄骨を、オープンフレームからフルフレームへと改良しました。
ピッチが上がると楽器への負担が増します。現在のピアノはA440hz-442hzに適するように作られていますが、この年代のピアノは435hz程度を基準に製造されているため、商品としての需要が少ないこともあり、国内ではほぼ見かけません。当時はまだ440hzの張力に十分に耐えらえる技術がなかったのです。
このstyle4が製造されていた年代は、スタインウェイは試行錯誤を重ねていた頃でもあり、1台1台が違う設計となっています。フルコンサイズは数も少なく、歴史的の価値もある博物館レベルのスタインウェイと言っても過言ではないかもしれません。ちょうど当店のギャラリーにはstyle4の調弦計算の資料がありました。
近年になってますますピッチは増加傾向にあります。ピッチが上がると音が際立つこともあり、さらにはA443の高いピッチを好まれる方も多くなってきています。
しかしながら、現在のA440hzが国際基準として設定されたのは1953年、僅か70年前に過ぎません。バッハ、モーツァルト、ベートーベン、シューベルト、シューマン、そしてショパン…。彼らが耳にしていた、そして曲想に描いていた音の周波数は、普段私たちに馴染みあるピッチより間違いなく低かったです。
2018年9月に第1回ショパン国際ピリオド楽器コンクールが開催されて以降、作曲家の生きていた時代のピアノを使用しての試みがにわかに注目を集めています。ちょうど今日この日、2023年10月5日から第2回目が開催されます。A435hzは宇宙の周波数とも呼ばれ、自然界ではもっとも人にとっても安らぎを与えるhzとされています。
当店では初めて購入したフルコンです。このピアノに「ヴィンテージNYスタインウェイの魅力とは何か」についても、問い続けて参りたいとも思っています。
満足に弾ける状態になるにはほど遠く、大掛かりな修復も求められています。現状はディスプレイレ(非売品)として設置しております。それでも音色は、極めて異質な威光を放っています。他のピアノのようにご試弾いただく状態にまでは達していませんが、当店にお越しの際は、ぜひお手を触れてみてください。ピアノ全体のフォルムや化粧板のローズウッドはとても美しいです。あのホロヴィッツが愛した1887年製のローズウッドにも一脈相通じるところさえあるように思います。
さらに一時期、東京都のホテル椿山荘に設置されていたクララ・シューマンが愛用したと言われている「グロトリアン・スタインヴェーグNo.3306(1875年製)」と構造がうり二つとのことです。ルース・スレンチェンスカさんが岡山で弾いたピアノとしても知られています。
30年頃前に一度修復されているようで、現在は、キャプスタンアクションに変わっておりますが、いずれこのピアノに合うアブストラクトアクションを探して、その音色を聴いてみたいです。
当店は作曲家への崇拝、演奏家への尊敬、楽器への感謝を忘れずに、これからもピアノと生きて参ります!