「ピアニストの中で一番好きなピアニストは?」と聞かれたら、”ホロヴィッツ”と答える方は少なくないと思います。もちろん私もその一人です。
生まれた年代から本人の演奏はCDだけでしか聴いたことがありませんが、CDからでも他のピアニストの音色とは一線を画しているのが分かります。
以前、ホロヴィッツの手の平の写真を見たことがありました。大きくて、柔らかそうで、何とも言えない手のひらでした。誰かが”蛸の吸盤みたいな手”と例えた方がいらっしゃいました。
ホロヴィッツの演奏で好きになった曲、新しく知った曲はたくさんあります。スカルラッティやスクリャービンは、普通にピアノを習っていただけではなかなか辿りつかないレパートリーです。でもやはり私がホロヴィッツの演奏で特に好きなのは、ショパンの「英雄ポロネーズ」とベートーベンの「熱情」(第3楽章)かな…。シューマンの「トロイメライ」はもったいな過ぎて滅多に聴けません。
母はホロヴィッツの東京公演を1回だけ聴きに行っています。音楽評論家の吉田秀和さんが”ひびの入った骨とう品”と評した演奏会です。
多量の薬を服用していたため意識が朦朧としていたのが理由とも言われていますが、母はミスタッチ云々よりも、”本当にこれがピアノの音色だろうか”不思議でならなかったそうです。幕間休憩では、ステージの下に、ホロヴィッツのピアノを見ようと、人だかりができていたそうです。
もし、今の私がホロヴィッツの演奏を生で聴けるならば、100万円でも惜しくないです。もちろんそんな大金は簡単に払えませんが、そこまでしても聴きたい、と奮い立たされるピアノであることは間違いありません。