理想のスタインウェイ

皆さんは理想のピアニストは誰ですか? 私はクラシックもジャズもロックも好きなのでたくさんいます。ホロヴィッツやグールドはもちろん、ビル・エヴァンス、小曽根真さん、坂本龍一さん、三柴理さん…枚挙にいとまがありません。NYスタインウェイは使い勝手が幅広いためいろいろな音楽に重宝されますね。
 そのなかでも理想の音色として思い浮かぶのは、やはりホロヴィッツが断トツです。もう10年以上前に、スタインウェイ社の企画で日本にホロヴィッツのピアノの試弾会がありました。私も2ヵ所に行き、その素晴らしき名器に触れてきました。
 製造番号はD314503。製造年代は1943年です。そのホロヴィッツのピアノは、私が弾いてもCDで聴いたホロヴィッツの音色を彷彿させる余韻がするので、それはもう大興奮でした。NYスタインウェイで奏でるホロヴィッツの音色は、世の中で一番綺麗なものだと思っています。
 むかし片想いの女性から「私がどれだけ綺麗か言葉で表現して」と言われた際に、「君はホロヴィッツの音色のように美しい」と口説いたら、沈黙のまま??? で轟沈しました…。
 話が逸れましたが、私のNYスタインウェイとの出会いは、このホロヴィッツの音色にあります。”ホロヴィッツのピアノと同じ、いや似た音色のするピアノを手にしたい”がNYスタインウェイに興味を持った原点であり、今も変わらぬ原動力です。
 もう1つホロヴィッツの愛用していたスタインウェイに、D156975があります。こちらは1912年に製造されています。一方で、ホロヴィッツとNYスタインウェイ使いとして双璧を成すグールドの愛器はD317194です。
 この3台のスタインウェイがきっかけとなり、古い年代のスタインウェイにどんどん惹き込まれてくようになりました。
 当店が新しい年代のスタインウェイに食指が動かないのは、あまりにもこの3台のインパクトが大きかったためです。もちろん新しい年代のスタインウェイにも良さはあるとは思います。
 が、しかしながら黄金期と呼ばれる1910年頃~1940年頃までは、優れたマイスターが多く、材質にも恵まれ、本場アメリカのディラーからも、それはそれは今でもとても高い評価を得ています。
 乱暴な言い方かもしれませんが、どうして新品の方が値段が高いのか理解できません。そして値段だけでなく、新しい年代のスタインウェイに上の3台のような音色を求めることもできないと思っています。

見てるだけでも煌びやかな音色が聴こえていそうなホロヴィッツの愛器
刻印されている314503のシリアルアンバーが神々しい